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Nov. 2022
11月号「みかんのカビとりんごのカビ」
箱買いしたみかんにカビが生えてしまった経験、ありませんか。はっと気がつくと、箱の底の方のみかんにカビが生えていて、まわりのみかんにどんどん広がってしまったという経験です。どうしよう。他のみかんにもカビがついているのかしら。食べても大丈夫かしら。心配ですよね。
そういう時はとにかくカビが生えたみかんはできるだけ早く取り除いて、捨ててください。まだカビが生えていないみかんは食べても大丈夫ですよ。ただ、皮の表面にカビの胞子がついている可能性があるので、さっと水で洗って、乾かしておきましょう。そして、できるだけ早く食べてしまいましょう。
このみかんによく生える青緑色のカビは、ペニシリウム・ジギタータム、あるいはペニシリウム・イタリカムというカビです。みかんやオレンジなど柑橘系の果実が大好きで優先的に生えてきます。
その理由のひとつはこうです。みかんの皮に傷がつくとノナナールやシトラールなどの油成分と、そしてリモネンなどの揮発性物質が出てきます。これらの物質は、ペニシリウム・ジギタータムやペニシリウム・イタリカムの胞子に早く芽を出させる効果があることがわかっています。
他のカビより少しでも早く芽を出し大きくなることで、これらのカビはみかんを占有しているのかもしれませんね。
このように、収穫後の植物に生えるカビは、ある程度決まっていて、植物とカビは特別な関係にあるものが多いのです。
それでは、りんごはどうでしょう。そのとおり、りんごにもよく生えるカビがあります。もちろん何種類かあるのですが、その中でも代表的なカビとして、ペニシリウム・エクスパンザムがあります。
このカビは、10〜15℃の比較的低温でもよく発育し、最初はりんごの表面で薄い色のスポットとして始まりますが、急速に広がって青緑色となります。そして、パツリンというカビ毒を産生します。パツリンの毒性は、動物試験では、短期毒性として消化管の充血、出血、潰瘍などの症状が認められ、また、長期毒性としては体重増加抑制などの症状が認められています。
りんごはりんごジュースなどに加工されて消費されることが多く、特に、子供は成人に比べて体重に対するりんごジュースの摂取量が多いこともあり、日本では以下のとおり、量的な基準値が設定されています。
りんごジュース及び原料用りんご果汁について、パツリンの基準値(食品衛生法)は、0.050 ppm(50 µg/kgに相当)です。基準値を超えたものは原則的に市場には出回りませんし、基準値内であれば、飲んでも心配することはありません。
なお、上述のみかんのカビはいわゆるカビ毒を産生しません。それでも、カビが生えたみかんは食べないでおくことに越したことはありません。
北海道大学獣医学部ご卒業後、旧大阪府立公衆衛生研究所において、女性で初めてとなる副所長兼感染症部長を務められた。現在は、日本防菌防黴学会理事、日本食品微生物学会理事など多方面でご活躍。
【専門家コラム】
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