IKARI 親子向けサイト enjoyobou

TOPへ

02

Dec. 2022

保護者向け

サクラと環境問題

  • Facebookシェア
  • Twitterシェア

日本人にとって最も身近な花であるサクラも、昨今の環境問題と無縁ではありません。
今回はサクラに関係する環境問題について考えてみましょう。

 

環境問題を引き起こす背景には、私たちが生きる上での経済活動が大きく影響を及ぼしています。

工場などから出る煤煙や自動車から出る排気ガスには、窒素酸化物や硫黄酸化物などの大気汚染物質が含まれ、これらが雨に溶け込むことで酸性雨となり、生態系にも影響を与えると考えられます。

サクラに対する直接の被害は報告されていませんが、身近なサクラを注意深く観察することで、環境変化にいち早く気づくことができるでしょう。

環境問題

 

かつて日本では里山から木を切り出して、薪を作り炭を焼いて、これらをエネルギー源にしていました。台所ではかまどで料理をし、お風呂は薪で沸かし、暖を取る際には薪ストーブや火鉢を利用していました。

里山では薪や炭を生産するために定期的に伐採が行われ、伐った後の切り株からは若木が育ち、数年を経て手頃なサイズに育つと再び薪や炭として利用するために伐採する、というサイクルを繰り返していました。人が利用し、手入れを行っていた里山では、春にはサクラやツツジ類が花を咲かせていたことでしょう。

 

しかし、エネルギー源として電気やガスが普及したことで、里山の樹木は利用されなくなりました。それらは放置されて大径木(直径が大きな木)となり、荒れ放題になりました。これがのちにカシノナガキクイムシによるナラ枯れ(コナラなどの大径木が夏場に突然枯れ上がる)の被害を拡大する原因にもなりました。

伐採のサイクル

 

最近では地球温暖化や気候変動という言葉をよく耳にします。日本でも最高気温が35℃以上の猛暑日や、30℃以上の真夏日が多く観測されるようになっています。植物園の位置する大阪府交野市の隣、枚方市(ひらかたし)では、2020年に猛暑日が22日、真夏日が75日も記録されました。

世界に目を向けると、オーストラリアやアメリカ西部などでは熱波や干ばつの影響で大規模な山火事が発生しています。一方で、日本でも集中豪雨や台風被害の増加など、身近な所に温暖化の影響が現れています。

温暖化の原因は工場や発電所、自動車の利用など、私達の暮らしが便利になったことと引き換えに、様々な場面で大気中に放出される二酸化炭素(CO2)が増えた事にあります。

 

先に紹介したように、かつてはエネルギー源として里山の樹木から作る薪や炭を利用していました。これらを燃焼させてCO2を排出したとしても、それは里山の樹木が生長する時に大気中から吸収したCO2を再び大気中に放出しているに過ぎず、実質的には大気中のCO2を増やしてはいませんでした。

ところが石油や電気、ガスを利用するようになり、大気中のCO2が一気に増えました。
石油や石炭、天然ガスは化石燃料と呼ばれています。これらは数億年前に地球上に生育していた動植物の遺体が、地殻変動や火山の爆発などで地下深くにとじ込められ、長い年月をかけて高温高圧下で変性し、作られたものです。私たち人間はエネルギー源としてそれを採掘して燃やしています。化石燃料を燃やすことで新たなCO2を大気中に放出し、CO2濃度を上昇させているのです。これが温暖化の原因と考えられています。

 

サクラを含む樹木は、生長過程でCO2を取り込み、酸素(O2)を放出してくれます。この光合成の作用が、今再び見直されています。地球温暖化の原因物質であるCO2を吸収し、あらゆる生物が生きるために必要な酸素を供給してくれるからです。
また、樹木から得られるエネルギーは再生可能エネルギーと呼ばれます。なぜなら、一度伐採して薪や炭などのエネルギー源として利用しても、再び苗木を育てることで数年後には利用可能となるからです。

 

 

光合成

樹木は、地面に根を張り生きる生物です。人や動物のように移動ができないため、温暖化が原因で生育に適した気温以上になっても逃げることができません。

植物園では、創設以来気象観測を続けています。そのデータによれば、70年間で温暖化は進行しており、それに伴って園内のサクラの開花時期は早くなっています。さらに、農業気象の専門家によるシミュレーションでは、深刻な温暖化により、2100年にはサクラ(ソメイヨシノ)が満開にならない地点や、そもそも開花しない地点が生じると予想されています。

サクラは前年の夏頃、翌年咲く花芽が作られ、気温が下がると休眠に入ります。そして、真冬の寒さで休眠から覚め、気温が上昇して開花に至ります。しかし、温暖化が進行すると休眠に入ることができなくなり、開花できなくなるそうです。

 

日本人がこよなく愛するサクラの花見や紅葉狩りをこれからも楽しむには、私達一人一人の行動が重要です。

温暖化が進むと

ところで、最後に少し心配な害虫の脅威について紹介しましょう。

2018年に特定外来生物に指定された、「クビアカツヤカミキリ」というカミキリムシの一種です。海外から輸入された木材や、梱包に使われていたパレットに紛れこんで、日本に入ったと考えられています。これまでに関東、愛知、大阪、徳島で被害が確認されています(2018年現在)。特にサクラ、ウメ、モモなどバラ科の大径木で被害が発生しやすく、樹木は衰弱して枯死に至ります。幸い本園ではまだ被害は確認されていませんが、いずれも日本人の暮らしや文化にとって重要な樹種です。

 

今後、こういった新たな脅威に対してコレクションを守っていくのも、植物園の大切な役割です。


 

← 前の記事

 


ご執筆:大阪公立大学附属植物園(旧大阪市立大学附属植物園)さま
約70年前に大阪市立大学理工学部附属の研究施設として発足し(現在は大学附属)、以来、植物学の基礎研究の対象として多くの植物の収集と保存を行う。なかでも日本産樹木の収集に力を注ぎ、野外で生育可能な約450種を植栽。研究の場であるとともに、自然学習や生涯学習の拠点として広く一般にも公開されている。

 

●大阪公立大学附属植物園公式HP
https://www.omu.ac.jp/bg/

 


【関連する記事】

  • 第1回

    第1回 サクラについて

  • 第2回

    第2回 桜に魅せられてー桜紀行ー

  • 第3回

    第3回 サクラと環境問題

戻る